東京ビッグサイトで開催されたWorld Robot Summit2018にいって参りました。
ざっくり自分が興味を持った展示の内容を紹介します。
目次
各企業の展示
ハーモニックドライブシステムズ
展示の中では個人的に本命。
何でかっていうと、ハーモニックドライブの現物を見てみたかったから。
こちらの会社のwebサイトによると、金属のたわみを利用して歯を移動させている、という内容の紹介がされておりますが、これだけだとピンと来なかったので現物を見てみたかったわけです。
無事に実物を触らせてていただきましたが、確かにカップ状の金属(フレクスプライン)がたわむことで歯が移動する様子を確認することができました。
上がウェーブジェネレータ、左がフレクスプライン、右がサーキュラスプラインです。
フレクスプラインは確かにたわむ。プラスチックコップのふちを持つとたわむ感じに似てる。プラスチックコップよりははるかに剛性はありますが。
さらにこの部品、切削で作られているそうで精度が大変高いのだとか。
切削で歯を作るとなると、被削性を向上させるために硫黄・セレン・鉛等を添加した快削鋼でしょうか?
推測ですが、硫黄を添加すると疲労特性が低下し、鉛を添加すると被削性を向上させつつも疲労強度の低下がある程度防げることから、どちらかというと鉛を添加した材料なのでは?と考えます。
断面形状も応力集中を防ぐためにコーナーRを綺麗に作っております。コーナー部の表面粗さも精度が良い。
なるほど、これを作るとなると高そうだ。
ちょっと構造について触れたいと思います。
駆動ギアが従動ギアに力を伝えるときの違いを通常の歯車とハーモニックドライブで比較すると以下のような違いがあります。
1.通常の歯車:駆動ギアが従動ギアを円周方向に押すことで力を伝える
2.ハーモニックドライブ:駆動ギアが従動ギアを半径方向に押すことで力を伝える。(別の表現をするなら、駆動ギアが従動ギアに食い込むことで力を伝えているともいえる)
この動きの違いにより、ハーモニックドライブにはバックラッシが存在しません。
このおかげで、回転方向を変えたときの位置ずれが生じないため、正確な動きが必要な産業用ロボットには不可欠な部品となっているようです。
日本での創業から約50年が経過しており、当然日本での特許は切れていいるわけですが、
・カップ状の部品を作るのが難しいこと
・周辺特許が生きていること
などにより、他社が同等の製品を作ることが難しい状況にあるようです。
また、構造的にシンプルなため軽量なのかと思いきやそこそこの重量は感じました。
この問題は、出力ギア(サーキュラスプライン)をアルミに置き換えた製品もあるので、軽量さを求めるならこちらを検討すればよさそうです。
価格についてですが、シンプルな構造な分、安いのかと思いきや、担当者さん曰く「高いです」とのこと。
後で調べてみたら、安いものでも4万円を超えておりました。
・サーキュラスプラインと
・ウェーブジェネレータ
が特に高そうです。いずれも切削みたいですし。
ウェーブジェネレータは楕円形状を作るのが大変そうです。
サーキュラスプラインは
・たわませるためには薄く、
・大トルクを伝えるためには厚く
と、相反する特性を両立させねばならないんですよね。
非常にデリケートな部品であることは想像に難くありません。特に高いのはこの部品かと思います。
産業用ロボットにはほぼこちらの減速機が使われているとのことですので、ロボットによる自動化の促進と共にハーモニックドライブシステムズ社も発展していくことでしょう。
ファナック
人との協業が出来るロボットを展示しておりました。
去年の国際ロボット展では、高速動作・高重量の取り扱いが特徴でしたが、今回はコンセプトが全く異なる製品の展示です。
動作速度が遅めで、ぶつかっても危険性が低いのが特徴のようです。また、ぶつかった際、自動で停止するようです。
ワークの移動や保持といった、単純な重作業はロボットに任せ、組み立てという複雑で比較的軽作業は人が担う役割分担です。
この動作の遅さから、導入コストをペイできるかがネックですね。
ファナックといえば黄色がイメージカラーですが、”安全”を主張するグリーンを製品カラーにして、普通の産業用ロボット製品と差別化しているようです。
去年の展示での複数のロボットアームによって完全自動化された溶接ラインがありましたが、”人”という不安定な要素を排除することで極限まで効率化されたラインという印象を持ちました。工場が目指しているものがそこになるのかな、と思いました。
ロボットが得意とするのは少品種大量生産ですが、次に進出していくるのは多品種大量生産か少品種少量生産が予想されます。
多品種大量生産はZOZOスーツのように測定・データ化が容易な技術が必要かと思います。またはAIが工程設計をできるようになれば多品種にも対応できるようになりそう。
したがって人との協業となると、現状では少品種少量生産が現実的でしょうかね。
付加価値の高い仕事を補助するようなイメージで。
もうちょっとてきぱき動いて、言葉で指定した工具を持ってこられるようになれば外科助手が勤まりそうですね。
YASKAWA
安川電機です。
ロボットによる組み立てラインの展示です。
ワークのイメージはリモコンです。
位置制御で、ワークが定位置に来たら決まった動きをするようです。
カメラやセンサーによってワークの有無を検出しているわけではないので、
・材料の補給
・ワークを保持する台
・ワークの精度の管理
などを押さえておく必要がありそう。検査は別のロボットに任せるか、人が行うことになるイメージか。
位置で検出しているため、ラインの送りスピードを遅くしても問題なく稼動するようです。
完全に自動化されているわけではない分、安く導入出来るそうです。
YAMAHA
大きめのドローンが展示されていましたが、こことは別に人だかりが出来ていました。
MOTOROiDという倒れないバイクのデモンストレーションが行われていました。
怪しげな形状です。どうやって乗るの??真ん中のシリンダーみたいなものは何??と大変目を引く展示です。
あと"T03"のフォントかっこいい。
後輪にAMCES軸という、キャスター角をつける軸が備わっていて、この軸に偏心してウェイトが取り付けられています。重心がずれて倒れそうになったとき、AMCES軸を回転させてウェイトを倒れそうな方向とは逆方向に振ってバランスを取るみたい。
さらにこのとき、後輪の接地位置が倒れそうな方向にずれることでもバランスを取るようです。
↓のときはスタンドを使わずに自立しています。
見物客がバイクを押したり引いたりしても上手にバランスを取って倒れませんでした。
55度(確か)までの傾きなら倒れないらしいです。
バランスを取るためにはウェイトはある程度重くしないといけませんのでバイク自体が重くなってしまうのか?と思いきや、このウェイトの中身はバッテリーだそうです。
どうやら運動性能を著しく損なう機構ではない模様。
SMC
FAなどで活躍するエアー製品で世界シェアNo.1。実に6割ものシェアを持つ会社なのだとか。
もちろん日本国内でもシェアNo.1
エアーシリンダーのみならず、エアーの制御機器にも強いようです。
シェアの大きさからなる生産数量の多さがコストダウンにも繋がり、世界中にも拠点があるため、品質・コスト・納期面で他社より優れており、これが強い競争力を生み出しているようです。
エアーのみならず電動のシリンダーも手がけており、FANUCのロボットのハンド部分も製造している会社です。
ロボットアームのノウハウとハンド部分のノウハウはまた異なる領域のようですね。
ハンド部分(グリッパ)の展示もありました。
エアー用の吸盤(パッド)が多数展示されておりました。
ワークの形状や重量、素材によってさまざまな吸盤を選べるようです。
例えば、
・複雑な形状なら蛇腹ホースみたいに動きのいい吸盤
・ガラスのようにゴムの油によって吸着跡が気になるなら特殊処理が施されている吸盤
・ワークが高重量なら大型の吸盤
この辺りは選定のノウハウがあるようで、SMC製品を導入するなら相談にも乗ってくれそうです。
ステージプログラム
ロボット・AIの最新の動向や未来について、専門家の方々による講演です。
ディズニーリサーチ リサーチサイエンティストのJoohyung Kim 氏
ディズニーが考える、キャラクターとのふれあいがもたらす癒しについて、ぬいぐるみとの触れあいの研究の動向を語ってくださった気がします。というのも、英語での講演だったので理解が追いつきませんでした。入り口で同時通訳の無線が無料貸し出ししていることをこのときはまだ知りませんでした。
ロボットとの触れあいと描いた映画は沢山ありますが、現実にロボット・AIから心で触れあう日が来るのでしょうか。
Gatebox 代表取締役 武地 実 氏
こちらの会社は「好きなキャラクターと一緒に暮らせる」というコンセプトのバーチャルホームロボットを作っています。
2年位前にネットでこちらの会社を発見し、なんだか面白そうな会社だなと感じた記憶があります。すでに製品化に成功し、価格30万円、限定300台が完売したそうな。
好きなキャラクターと暮らすことへの情熱に溢れている講演でした。
そういえば私も小さいころにぬいぐるみが喋んないかな、とか車と会話できるといいな、と思った記憶があるような。
バーチャルのイケメンホストに貢がせるビジネスとか出てきそう。
まあ、実際大きなネズミに貢がせるビジネスは大成功しているわけですし時間の問題でしょう。
アイロボット社 副社長 Chris Jones 氏
ルンバの会社の副社長さんです。
スマートホームは家の形をしたロボットなのだそう。
そして、スマートホームは感知する・行動する・考えることが必要だけど、現状、考えるのが苦手な分野で、この部分を埋められるかが今後の課題みたい。
実際、家のレイアウトが分かっているルンバと分かっていないルンバでは、掃除にかかる時間に差が出るという実験結果を見せてくれました。
体内時計で測ったみたけど、レイアウトが分かっているルンバだと、そうでないものと比べて80%くらいの時間で掃除が完了しているようでした。
確かに、ロボットの生産性が向上すれば必要な電力量は減りますし、電動化が進む中、電力を確保するのが難しくなってくると、自ら考えて省エネルギーな選択ができるロボットの需要はますます高まりそう。
他にも沢山の会社が出展されていました。
製造業やIT関係の人だけでなく、一般の方も入場可能なので、ロボットやAIに興味があるなら是非足を運んでみてはいかがでしょうか?
事前登録すれば入場無料(しないと1000円)ですし、未来のイメージがより具体的になると思いますよ。